「落ち着きのない子」は、実は”エネルギー切れ”のサインかもしれません

こんな方に読んでいただきたい内容です。

  • 落ち着きがない・すぐ癇癪を起こすお子さんの対応に悩んでいる方
  • 「叱る」「対応の工夫」を頑張っても、行動が繰り返し戻ってきてしまう方
  • 発達支援や身体づくりに関わるお仕事をされている方

専門的に聞こえるかもしれませんが、できるだけかみ砕いてお伝えします。

行動は「反抗」ではなく「サイン」

診察や検査すらままならないほど、じっとしていられない子どもがいます。ソワソワし、どんどんテンションが上がり、最後は癇癪。保護者が体を押さえていないと座っていられないこともあります。

こういうとき、多くの現場では「もっと愛情をかけよう」「もっと声かけを工夫しよう」と、目に見える行動そのものに対応しようとします。でも、それだけではうまくいかないことがほとんどです。しばらくすると、また同じ行動が戻ってきてしまうからです。

臨床の現場でよく見えてくるのは、こうした強い調整不全のほとんどに、共通して「エネルギー産生の問題」が隠れているということです。脳が、落ち着きを保つだけの燃料を持てていない。だから、衝動的な反応や癇癪という形で表に出てしまう。エネルギーの産生を整えていくと、行動そのものが、しばしば劇的に落ち着いていきます。

これは「行動を直そう」とするアプローチとは、出発点がまったく違います。

実際、近年の研究では、脳の発達期は非常にエネルギー消費が大きく、細胞内でエネルギーを作る仕組み(ミトコンドリアの機能)にわずかな障害があるだけでも、発達の道筋に影響しうることが報告されています。ADHDや自閉スペクトラム症のあるお子さんで、このエネルギー産生の仕組みに違いが見られたという報告も増えてきています。「行動の背景にエネルギーの問題がある」という見方は、決して感覚だけの話ではなく、研究の裏付けが少しずつ厚くなってきている領域です。

見極めるポイントは「疲れやすさ」

では、どうやって見極めるのか。私が一番よく見ているのは、疲れやすさです。

少し負荷のかかることをやってもらい、どれくらいの早さで崩れるかを見ます。血中の酸素飽和度、顔が赤くなっていないか、作業の途中でコントロールを失っていないか。そうした様子を経時的に追いかけていくと、エネルギーの土台が本当に変わってきているかどうかが見えてきます。エネルギーが整ってくると、安定感が増し、衝動のコントロールが上がり、癇癪が減り、崩れるまでの時間が長くなっていきます。

ここは正直にお伝えしたいのですが、こうした「疲れやすさ」を臨床の現場で観察するという手法自体は、直接それを検証した研究がまだ十分にあるわけではありません。あくまで、臨床の中で積み重ねられてきた実践知として受け止めていただくのが正確です。

リハビリより先に、落ち着きが必要

ここで見落とされがちなのが、順番の話です。

反射や前庭系、眼球運動といった、いわゆるリハビリらしいトレーニングは、子どもが参加できるくらい落ち着いていなければ、そもそも意味のある形で行うことができません。落ち着くまでに1ヶ月、長ければ3ヶ月ほどかかることもあります。でもこれは、決して無駄な時間ではありません。土台をつくっている時間です。

ここで力を発揮する手段のひとつが、光を使ったアプローチ(フォトバイオモジュレーション、光療法)です。以前、あまりに疲れてソワソワし、保護者が体を押さえていないといけない状態のお子さんがいました。光を当てた後に落ち着き、パズルに取り組めるようになったのです。

このアプローチは、近赤外光や可視光が細胞内のミトコンドリアを刺激し、エネルギー産生を高めるという仕組みが報告されています。自閉スペクトラム症のお子さんを対象にした2024年の無作為化比較試験(30名、2〜6歳)では、8週間の光照射で症状評価スコアが平均7ポイント改善し、脳波にも変化が見られたと報告されています。

落ち着いた後の、リハビリの順番

エネルギーと落ち着きが整ってきたら、次は取り組む順番です。原始反射から始まり、感覚機能・粗大運動・姿勢やバランスと続き、微細運動・言語が積み重なり、最終的に認知機能や社交性といった、神経学的な発達の順序に則って、リハビリ(トレーニング)を行っていきます。

この順番を知っておくと、「今どのあたりにいるのか」を保護者にも正直に伝えられますし、あれもこれもと同時に手を出すのではなく、現実的なロードマップを描くことができます。ただ、この順序自体を裏付ける研究はまだ見つかっておらず、脳の構造と機能から考えられた理論である、という点についてはご留意ください。

まとめ

  • 落ち着きのなさや癇癪は「反抗」ではなく、「脳のエネルギーが足りていないサイン」として読み替えられることが多い
  • 行動そのものを直そうとする前に、エネルギー産生の状態を整えることが、結果的に一番の近道になる
  • 落ち着くまでの時間は無駄ではなく、その後のリハビリが機能するための土台づくりの時間

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参考文献リスト

  1. “Energy metabolism in childhood neurodevelopmental disorders” — eBioMedicine / The Lancet (2021)
  2. “A systematic review on the role of mitochondrial dysfunction/disorders in neurodevelopmental disorders and psychiatric/behavioral disorders” — Frontiers in Psychiatry (2024)
  3. “Mitochondrial Dysfunction in Autism and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Evidence from Genetic, Biochemical, and Neuroimaging Approaches” — MDPI (2024)
  4. “The Bitter Truth About Sugar and Willpower: The Limited Evidential Value of the Glucose Model of Ego Depletion” — PubMed 27485134 (2016)
  5. “Transcranial photobiomodulation in children aged 2–6 years: a randomized sham-controlled clinical trial…” — Frontiers in Neurology / PubMed 38737349 (2024)
  6. “Transcranial photobiomodulation for reducing symptoms of autism spectrum disorder…an open label study” — Frontiers in Child and Adolescent Psychiatry (2025)
  7. “Linear and Nonlinear Analyses of the Cardiac Autonomic Control in Children With Developmental Coordination Disorder” — PMC5874518


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「原始反射が統合された」は誤解かもしれない、という話

こんな方に読んでいただきたい内容です。

  • お子さんの発達や「原始反射」という言葉について調べたことがある方
  • 「反射を統合させましょう」という説明を聞いたことがある方
  • 発達支援や身体づくりに関わるお仕事をされている方

専門的に聞こえるかもしれませんが、できるだけかみ砕いてお伝えします。

「統合」と「抑制」は、実は別のもの

原始反射という言葉をご存じでしょうか。赤ちゃんの手のひらに触れたものをぎゅっと握りしめたり、大きな音に体をビクッとさせたり。あの、赤ちゃんの頃だけ見られるはずの反射のことです。

発達支援の現場では「反射を統合させましょう」という言い方がよくされます。でも実はこの表現、少しズレているんです。

原始反射は、もともと脳幹という脳の深い部分が作り出す運動パターンで、赤ちゃんの発達にとってとても大切な役割を持っています。神経系を刺激し、脳の表面にある「皮質」という部分の成長を助けているのです。反射が生まれて働いているこの状態こそが、本来の意味での「統合」です。

一方、ある程度成長した子どもに対して私たちが本当に目指しているのは、統合ではありません。「抑制」です。

反射そのものは神経系の中に残り続けているけれど、成熟した皮質がその反射をきちんと抑えられるようになる。これが抑制です。皮質による抑制がうまく働いていないと、本来もう表に出てこないはずの反射が、いつまでも見える状態のまま残ってしまいます。

これは言葉遊びではありません。実際、成人の神経内科の領域にも「前頭葉解放徴候(frontal release signs)」と呼ばれる現象があります。前頭葉に何らかの障害が起きると、赤ちゃんの頃の反射が再び現れることがある、というものです。これは皮質による抑制の力が落ちたときに起きる反応として説明されています。「反射は消えたのではなく、抑え込まれていただけ」という考え方は、医学的にもきちんと根拠のある視点なのです。

言葉が変わると、問いが変わる

この違いに気づくと、発達を見るときの考え方が大きく変わります。

「統合」と「抑制」を混同していると、私たちの問いは「どうやってこの反射をなくすか」で止まってしまいます。

でも、抑制という視点に立つと、問いはこう変わります。

「なぜこの子の脳は、この反射を抑えられていないのだろう?」

この問いは、もっと大きな話につながっていきます。皮質の発達がまだ追いついていないのかもしれません。筋緊張が弱く、体を動かす経験が足りていないのかもしれません。神経系の炎症や、酸素の取り込み、エネルギーを作る力に課題があるのかもしれません。あるいは、そもそも十分に複雑な運動を経験できず、皮質が育つための土台が整っていないのかもしれません。

こう考えると、残っている反射は「切り離して対処すべき単独の問題」ではなく、「神経系全体が今どんな状態にあるかを教えてくれる窓」になります。

反射は、皮質からのメッセージ

原始反射は、ただの運動パターンではなく、一つの情報だと捉えることができます。

本来は抑制されているはずの反射が見えているなら、それは前頭葉(皮質)がその反射をうまくコントロールできていないというサインです。逆に、本来もっと働いていてほしい時期に反射が見られない場合は、発達の初期段階でうまく反射のループが作られなかった可能性を示しています。

実際の研究でも、原始反射の残存と発達の課題との関連が報告されています。たとえばADHDのあるお子さんでは、モロー反射やギャラント反射といった原始反射が、そうでないお子さんに比べて有意に多く残っていたという研究があります(Konicarova & Bob, 2012)。また、2,000人を超えるADHDの子どもや大人を対象にした介入プログラムでは、12週間のトレーニングを経て残存反射が減少するとともに、運動面・認知面の指標にも改善が見られたという報告もあります。自閉スペクトラム症においても、原始反射の残存と脳の左右半球間のつながりの発達の遅れとの関連が指摘されています。

ここは正直にお伝えしておきたいのですが、この分野の研究はまだ発展途上です。2026年に発表されたシステマティックレビューでも、「原始反射の残存と発達の遅れには関連が見られるが、研究数はまだ少なく、内容にもばらつきがある」とはっきり書かれています。反射がなぜ、どのくらいの速さで変化するのかという体内メカニズム(酸素化やエネルギー代謝、炎症との関係など)についても、臨床の現場での手応えとしては語られていますが、査読された研究で明確に裏付けられているとまでは言い切れません。

それでも、「統合」ではなく「抑制」という正しい言葉を使うこと自体には、大きな価値があると私は思います。反射を消すことだけを目標にするのではなく、「なぜ脳がその反射を抑えられていないのか」を考える。この視点の転換こそが、より良い理解とケアにつながっていきます。

まとめ

  • 原始反射が生まれて働くことが「統合」、成熟した皮質がその反射を抑え込むことが「抑制」
  • この二つを混同すると、ケアの考え方が「反射をなくす」ことだけに閉じてしまう
  • 「なぜ皮質がこの反射を抑制できていないのか」と問い直すことで、神経系全体を見る視点が持てる

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■ 参考文献リスト

  1. StatPearls “Primitive Reflexes: Comprehensive Neurological Assessment Across the Lifespan” — NCBI Bookshelf
  2. Frontiers in Human Neuroscience (2026) “Primitive reflexes as candidate quantitative readouts of hierarchical inhibitory control across the lifespan”
  3. “Retained Primitive Reflexes and Potential for Intervention in Autistic Spectrum Disorders” — PMC9301367 / PubMed 35873782 (2022)
  4. “Associations between retained primitive reflexes and cognitive performance in autism spectrum disorder” — ScienceDirect (2025)
  5. Konicarova & Bob, “Retained primitive reflexes and ADHD in children” — Activitas Nervosa Superior (2012)
  6. “Persistent Childhood Primitive Reflex Reduction Effects on Cognitive, Sensorimotor, and Academic Performance in ADHD” — Frontiers in Public Health / PMC7706103 (2020)
  7. “Persisting primitive reflexes and motor and cognitive development in children: A systematic review” — Acta Psychologica / ScienceDirect / PubMed 42061063 (2026)
  8. Leisman, “Evaluating Primitive Reflexes in Early Childhood as a Potential Biomarker for Developmental Disabilities” — Journal of Paediatrics and Child Health (2025)

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